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グアテマラからメキシコへ
グァテマラシティー
 グアテマラシティでは、以前ドイツで一度会ったことのあるサコさんにまた会いました。３年半の時間と１万キロの距離を隔てて、よく会えるものであると感心してしまいます。地球は狭い、とは言いますが、考えてみれば確率的には奇跡のような出来事です。サコさん（スペイン語名：Ｊｏｓｅ）は、とても人間の大きな方で、その人柄は一緒にいるひとをとても穏やかな気持ちにさせてくれます。それ以来、現在に至るまで弱い私の心の支えにさせていただいております。
当時彼は、グアテマラに長期間滞在しており、日本人の間では主のような存在でした。私も滞在中は何かとお世話いただきました。彼は私が去った後も、かなりの長期にわたってグアテマラに滞在されようです。
この辺は地形的に東西に狭い性でしょうか、南米に行くあるいは北米に向かうすべての旅行者がここを通ります。このグァテマラシティーでは、他にも多くの日本人旅行者にお会いしました。その中には東京のＯＬ二人連れもいました。暫く滞在された後、半年の予定で南米に向かって旅立っていかれました。、、、南米、、、。ふっとまたあの日々が甘く切なく思い出されました。これから南米に行くという彼女らが無性にうらやましくてなりません。嫉妬さえ覚えたものでした。
数年後、私が日本に戻ってから伺ったお話では、彼女らのうちの一人の方が、ボリビア旅行中に知り合った現地のお医者さんと結婚されたそうです。その後、お子さんを連れて、ガラパゴスへ家族旅行されるというお便りをいただきました。私と違い、運命に身を任せた彼女。とても控え目な方と思っていたのですが、意外に情熱的な方だったのですね。その幸せを願わずにはいられません。コチャバンバの爽やかな風と美しい風景が思い出されました。
グアテマラの人々は人種的にはアステカの末裔といったところです。とてもカラフルな衣装が目を引きます。町のあちこちには、露天の市場が立っています。人種的なところや服装など、アンデス山中の市場とどこか共通するものがあります。ただ、もっと色使いが豊富で鮮やかです。ともあれ、どこでも、ごちゃごちゃした市場を歩くのは楽しいものですね。
アティテュラン
グアテマラシティーからバスで数時間、山の中を走ったところに湖があります。ラゴアティテュランです。周囲を３千メートル以上の３つの火山に囲まれた美しい湖です。
湖岸にはいくつもの村があります。私は、サコさんの案内でそのなかの一つ、パナヤチェルに暫く滞在することにしました。そこは国内有数の観光地だけあって、小さい村は観光客でいっぱいです。当然、ホテルや娯楽施設なども整っているようです。
先にこられた日本人旅行者が、湖岸の林の中にある一軒家を借りていました。私たちもそこを借りて寝起きさせてもらいました。家はコンクリートの打ちっぱなしの一間だけです。周囲の樹木は家を覆い隠すほどに茂っています。おかげで、強い日差しがさえぎられて、庭も家の中もひんやりしてとても気持ちの良いところです。
湖へは、５分ほど深い林の中の道を歩きます。途中、カラフルな衣装を着た母子ずれなど、村の人々とすれ違います。みんな小柄で、日本人にはより親近感がわきます。やがて、急に視界が開けて、青い湖が現れます。対岸には３つの山々が美しいコニーデの裾野を広げています。
ここはなんと温泉がわいています。湖岸の一角を掘り、周囲に壁を作るとすぐ暖かいお風呂ができあがります。パンツ一丁でお湯の中に寝そべると、何年かぶりの温泉に、なんともいえなくのんびりした気分になります。つま先の上にはアティテュラン山が澄み切った空を背景にくっきりと見えます。気がつくとまた南米のことを思い出していました。
そんなこんなで、あまりの居心地のよさと、ラテンアメリカに対する離れがたい思いから、大分のんびりしてしまいました。
アメリカへ
そう、ブエノスアイレスでやっと取ったアメリカのビザも、有効期限の半年がそろそろ迫っていました。入国前に失効したら大変です。すっかり腑抜けになってしまった身体に鞭打って、メキシコへ向かいました。
次の旅行の資金稼ぎのためには、なんとしてもアメリカ入国を果たさなければならないのです。そのためにここで解決すべき最後の問題がありました。どこから入国するかということです。エルパソなどを通る陸路が一般的ですが、メキシコ人に対する警戒から、入国審査が厳しく、追い返された者もいるとの情報が入りました。
ニューヨークへ飛行機で行くことも考えましたが、少し高くつきます。また大きな空港はそれなりに警戒が厳しいようにも思えます。考えれば考えるほど迷ってしまいます。万が一入れなかった場合のことを考えると恐ろしくて、とても賭けはできませんでした。どこか“確実”と思えるところでなければなりません。
長期間の旅行者が警戒されやすいことから、パスポートを刷新するとか、それまでの長期旅行の証拠になるような記録は、あらかじめＮＹに送っておくとか、それ以外にも、ここではお話できないような手もうちました。それでも、万が一を考えて、さまざまな入国ルートを検討しました。メキシコシティーでの時間はほとんど、その調査に当てたといっても過言ではありません。もう観光どころではないのです。
結局、アトランタ空港から入ることに決めました。利用客が比較的多くかつ田舎の空港なので、それほど日本人旅行者などを気にしないのではないかと考えました。それまでアメリカのビザをとるのに本当に苦労したことと、以前カナダ入国時に受けた、執拗なまでの取調べの経験から、そうすんなりと入国できるとは考えていませんでした。担当係官の泣き落としさえも考えたほどです。とにかく、お金の無い私には絶対に失敗の許されないことでした。
３ヶ月以内であればビザの不要な現在では、とても考えられないことですね。
そして、、、数日後、私は、ニューヨーク行きのグレーハウンドに乗っていました。アトランタの入国審査は意外なほどすんなりと通りました。入国を果たしたとき、それまでの緊張が解けたのとうれしさとで、思わず小さく、でも全身の力をこめてガッツポーズをしました。確かめるかのように何度もしてしまいました。できれば大きな声で叫びたい気持ちでした。「やったーっ、俺はやったぞーっ、ついにアメリカに入ったぞーっ」と。ドイツ以来果たせなかった希望がやっとかなった瞬間でした。
空港を出たとき外は、冷たい空気の中冬の早い夕暮れが迫っていました。でもそこには、まぎれもなくアメリカの大地があり、その上にしっかり立っている自分がいたのです。今度は思いっきり大きなガッツポーズがでました。
これで何とか、南米旅行をハッピーエンドでクローズできそうです。
長い間、南米旅行につきあっていただいてありがとうございました。
＊これから始まるニューヨークでの半年に及ぶアルバイト生活は、また、別な機会にお話しさせていただきます。
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