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南アメリカ旅行
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豊かなパンパ −美しい町、美しい人々ー
穏遙かな山並みのかなたに、どこまでも広大な草原パンパが広がっています。そこは欧米のように美しく豊かな土地でした。こぎれいな町や村と、そこに住む人々の生活がつむぎだす世界はまさに豊かさそのものでした。
快適な道、心豊かな人々
次の目的地のトゥクマンまでは、山間のルートと山沿いのルートがあります。はじめ、風景が美しいというサルタ経由での山間ルートを考えていましたが、今回山はできるだけ避けることにしました。
平野部へ向けてフフイから道はさらに下ります。下るにつれて暑さがさらに増します。道はよく舗装されておりますが、山沿いのためまだまだかなりの起伏があります。日本の真夏を思わせる暑さも手伝って、ペダルをこぐのはそう楽ではありません。でも体調がとてもよく、暑い太陽と久しぶりの汗だくを十分に楽しめました。
食料を仕入れに立ち寄った小さな町でスーパーマーケットに入りました。ハムとジャムとパンを仕入れたところに、いつものように何人かの方に話しかけられました。そうこうしている間に、スーパーの中で人だかりができていました。幹線からすこし横に入ったところにある町で、特に旅行者が立ち寄ることもない性か、私のいでたちや、モンゴル系人種がすこし珍しかったようです。
途中夕立に会い、雨宿りしたガソリンスタンドで、ブエノスアイレスから来たという、ヒッチハイク中の大学生と会いました。コルドバ行きのトラックに話を付けたとのことで、あまり話す時間がありませんでしたが、ブエノスアイレスの彼の自宅を訪ねることを約束してわかれました。
雨が予想外に長引き、出発しかねていると、今度は同じ雨宿り組で車で旅行中のご夫婦に話しかけられました。そしてスープとコーヒーをご馳走になってしまいました。やはりブエノスアイレスから来たそうです。アルゼンチンは旅行が好きな方が多いようです。
小奇麗な町
大きな町だけでなく小さな町も、そのたたずまいから人々の豊かさが感じられます。トゥクマンの郊外には美しい並木道が続いていました。その両側には広々とした芝生の庭とモダンな家が並んでいます。くわえて、明るい太陽と美しい緑、雪を頂いた雄大な山々の眺めがその町並みの美しさをさらに引き立たせています。
高級住宅街なのでしょうか。いやきっと、広い国土と、人生に対する人々の基本的な考え方が、そのような町並みを造りあげたのだと思います。
数十km間隔で小さな町や村が連なりますが、どの町も小奇麗でとてもチャーミングです。欧米を旅行しているような気がしてきます。少なくとも“南米”というそれまでの私のイメージには、とうていあわない世界がそこにありました。
地図
南米に入って以来地図を入手するのは一苦労でしたが、ここアルゼンチンはACA(Automobil
Club de Algentino)という立派な組織があり、旅行者に道路情報を提供しています。地図も詳細なものが用意されていました。
暑さを避けて、あるガソリンスタンドの木立の陰で昼食を取っていたときのことです。このスタンドのオッサンはとても気さくな方で、短パン一ちょうで話しかけてきました。地図を探していることを話すと、“いいものがあるよ”とACA発行の詳細な地図を沢山いただきました。特に感激したのがパタゴニアの地図です。辺境の地を旅行するのに必要不可欠なものなので、心配していたのですが、期待以上の地図でした。これで完璧です。とてもたすかりました。
奥さんと娘さんも遊びに来ていました。娘さんは灰色の透き通るような目をしていてとても美人です。聞けばオッサン、いやご主人はシリア出身とのことです。私が以前シリアに行ったことがあると伝えると、とても喜んでいただきました。皆さんとても親切で、メロンに、コーラは3本もご馳走になってしまいました。
朝の空気の中で見た爽やかな目元
その朝は、カタマルカへの分岐点にあるガソリンスタンドの隅で目を覚ましました。水道で顔を洗いトイレを使わせてもらって身支度を整えました。見ると敷地内にある売店がもう開いています。出かける前にそこでコーヒーを飲むことにしました。
店員は女の子が一人でした。17〜18才ぐらいの目元のとても爽やかなきれいな女の子です。“ブエノスディアス”というと、澄んだ声で“Buenos
Dias”と返してくれました。少し意外な客に興味を引かれたのか、控えめながらも、いろんな質問をしてもらいました。旅行のこと、そして恋人のこと、、。
まだ薄暗く立ち寄る車もほとんどいない早朝から、取り留めの無い会話はともかくも、彼女の美しい目元、豊かな表情にすっかり引き込まれてしまいました。コーヒーを何倍飲んだのか何を食べたのか記憶にありません。予定はそっちのけで、しばしボーッとしてしまいました。
そこにドライバーがタバコを買いに来て、はっとわれに返りました。そう、自分はただの通りすがり、、、、、やっぱり出発することにしました。日の出前の、まだ目も良く覚めないうちのわずかな時間、夢を見たのだと思うことにしました。サドルにまたがると前方に、朝日を浴びた山々を背景にカタマルカの町並みが白く光っています。何故か、暫く、意味も無く強くペダルを踏み続けました。売店から出てきて手を振っていた彼女が暫く頭から離れませんでした。
パンパ 大平原
ラリオハから暫く南下すると、幹線道路が東へ向かいます。目的地メンドサからは遠ざかる方向です。悪路が予想されましたが、思い切って幹線道路ではない最短ルートをとることにしました。山は低く遠くなり道は広大な大平原に入っていきます。乾燥地帯らしく、潅木が点在するだけのあまり変化の無い風景がどこまでも続きます。それまでのみずみずしい緑はもうありません。チェベスまでの200km間には家が数件程度の集落がいくつかあるだけです。
大平原の彼方から時折夕立のような激しい雨がやってきます。すると道はあっという間に川になってしまい進むことができません。隠れるものがあるところまで何とか走り、そのまま何時間も停滞することになります。
暑い日には雨も悪くありません。雨に煙る平原を見ていると、心も身体も休まります。車もほとんど通りません。風も無くゆったりした時間が過ぎていきます。
ガウチョらの集落でしょうか、水をもらいに立ち寄ったりするとこの辺では大歓迎を受けてしまいます。アルゼンチンでも田舎だとモンゴル系が珍しいのでしょうか、子供たちの目はむき出しの好奇に輝いています。そしていただくのはいつも、大量の肉です。好物なので、実に嬉しい限りです。
アンデスの麓メンドサ
メンドサは近代的な雰囲気のする美しい町です。昔大地震があって、歴史的な建物はほとんどが壊れてしまったということです。新しい町はアンデスの山並みを背景に、深い緑の並木道や多くの公園が町の景観にマッチしてとても美しく感じられます。
町の中心部にあるサンマルティン公園へ行きました。美しい芝生に南国の樹木が繁茂しています。公園の一角がキャンプ場になっていて、多くの家族連れ、老若男女がキャンプを楽しんでいます。その光景には、南米で最も早く中産階級を作り上げた国の豊かさが感じられました。
経済発展著しい当時の日本ですが、そんな余裕があったのでしょうか。ラテンの人々の人生に対するスタンスの表れだと、少しうらやましく感じられました。あるいは、うらやましく感じたのは、みんなが仲間と一緒にいたということだったのかもしれません。
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