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北アメリカ滞在記

1、アメリカの入国ビザ

2、モントリオールへ

3、仕事は飲食関係

4、ハードワークは眠い

5、中華レストラン

6、移民のバイタリティー

7、マウントロイヤル

8、南米への旅立ち


9、ニューヨーク へ

10、仕事は日本レストランで

11、お客はガッツ石松

12、バスボーイとスチュワーデス

13、車の運転免許

14、ありがとうニューヨーク

バスボーイとスチュワーデス


ランチタイムの仕事は高級日本レストランに落ち着きました。仕事は“雑用係”です。
そこでの仕事は楽しく、毎日見上げたツインタワーの威容と共に、忘れられない日々になりました。
同僚に、なぜか現役のPANAMのスチュワーデスがいました。
その一年後、彼女はテネリフェ(カナリア諸島)で航空機事故の犠牲になりました。
私にとって初めて経験する、親しくなった人の死でした。

仕事はバスボーイ

その後も、より多くの収入を求めて、年が明けた頃からランチタイムはダウンタウンにある高級日本レストランで働くようになりました。その“高級さ”は、天皇陛下の訪米の折、陛下のお食事をするレストランの候補に挙がったことからも察して頂けるかと思います。品格もあるということでしょうか。真新しい店構えや広差を感じる店内の雰囲気は素人目にも立派といった印象です。その辺の日本レストランとは違います。場所はダウンタウン。9.11で崩落したツインタワーのすぐ近くです。また、ウォール街等も近いせいか客層は半分以上が現地のビジネスマンでした。客席は、人気のすしカウンターやドリンクカウンター、テーブル席に加えて、それと離れて、3〜4部屋ほどの品のある座敷席もあります。床の間の掛け軸の下には、凛とした風情の生け花が生けてあります。また部屋の一角には豪華な着物もかけてありました。私も見たことが無いような和風がそこには有ったのです。他の客席や厨房からやや離れていることもありその一角だけがとても静かでした。琴のBGMも流れていたように思います。私の仕事は座敷のバスボーイ(皿引)です。午前10時全ての部屋の掃除とテーブルのセッティングから始まります。客が来てからは、料理や飲み物、備品を運ぶために厨房と座敷を何度も往復します。客が帰ると今度は食器やごみを片付けます。テーブルや畳のクリーニングも仕事の一部です。要はここでも雑用係、なんでも屋です。座敷のリーダーの指示でてきぱきと動かなければなりません。店は高級ですが、ありがたいことに報酬もそれなりで、やっと満足いく収入が得られるようになりました。

座敷の女性従業員

座敷の担当にはリーダー格のミヤさん(40前後のおばさん。)の他に2〜3人の若い女性がいました。男は最年少の私だけです。座敷席に併設した小さな3畳ほどの部屋が私たちの詰所兼休憩所です。男は白シャツの上にはっぴをはおるだけですが、女性は全員和服を着ます。仕事の前に座敷の奥のふすまの陰でミヤさんの指導を得て着替えをしますが、毎回ワーワー言いながらけっこう楽しそうです。
 ランチの準備が一段落するとコーヒーブレイクとなります。陽気で気さくなミヤさんのジョーク混じりの話と、若い女性陣の黄色い声で笑いが絶えない時間でした。彼女らの話は往往にして色っぽいものに発展します。昨日のベッドの中での話から世界中の男の話と話題は尽きません。シャイな私はどう対応して良いか分からず、耳をそばだてながらも無関心を装うのが精いっぱいでした。
女性陣の中に週に23日ほど不定期でやってくる人がいました。名前はミカさん(仮名)。彼女は当時世界最大級の航空会社パンナム(パンアメリカン航空)の現役スチュワーデスです。そんな人がどうして?ということですが、NYに自宅があり、非番で自宅待機の日にここで社会体験も兼ねてバイトをしているそうです。仕事に来るたびに、この間はアムステルダムでお花見をしたとか、カナリアで泳いだとか日本に行って来たとかといった、スケールの大きな世界中の話をしてくれました。さすがに国際路線のスチュワーデス。こんな人もいるんだぁと感心してしまいます。特に印象に残っている彼女の言葉が、「スチュワーデスになって本当に良かった。」というものです。一般乗客ではなかなか入れないコックピットですが、そこからの眺めが素晴らしいのだそうです。特に、夕焼けや夜間飛行時に見える光の美しさに、言葉にならないほど感動されたようで、そう話す時の彼女の表情はとても美しく魅力的でした。

皆の夢

一方では彼女、私の浅薄な常識のレベルからすると、その表に出る気の強さが尋常ではありません。時にその美しい容姿からは想像もできないようなきつく乱暴な言葉が飛び出します。聞けば彼女、幼いころ不幸な経験をされたとのこと。その後の体験がそんな態度の背景にあるのかな?等と、安っぽい詮索をしたこともありましたが、、、、、ともかくも、過去はどうであれ、その後大変な努力をされて今の仕事に就かれたわけで、周りがとやかく言うことでもありません。特に私のようないい加減な風来坊とは住む世界がまるで違いますし、余計な詮索やおせっかいは無用でしょう。
午後3時にランチタイムが終わると、私は夜のピアノバーが始まるまで時間があります。良く彼女らとレストランの近くの喫茶店で過したものです。それぞれに大きな夢があり、ここNYでその夢の実現に向けて努力している方たちばかりでした。澄み切った冬空を突いて立つツインタワーを見上げながら、希望に満ちた時間を感じるとともに、いま自分がNYにいることが不思議な気持ちになりました。そして、「いつまでもふらふらしていられないなー、彼女らを見習ってオレも頑張らないと、、、」などとも思うのでした。一人旅が長い性か人との関わりがとても楽しく、冬から初夏にかけての半年間、母親の様なミヤさんと元気の良いお姉さん方と過す時間が毎日の楽しみでした。おかげでNYでの生活もまた忘れられないものになったのです。

 真冬のツインタワー

レストランから1ブロック先にあのツインタワー(ワールドトレードセンタビル)がありました。ランチが終わった後の空き時間に何度か上ったことがあります。あの9.11からは25年も前のこと、当時は世界一のビルとしてNYの威信を象徴するような建物でした。高層ビルに囲まれて付近の通りはいつも寒々とした日陰なのですが、見上げれば黒々したビルの遥か上空に、いつも二つのタワーが真っ白に輝いているのが見えたものです。何度かその屋上にも上がったことがあります。102回でエレベーターを降りて階段を上がると屋上にでます。屋上の四辺に沿って伸びる展望デッキから見下ろすと深い谷底の様な通りと車の列が玩具のように見えます。また、イーストリバーとハドソン川に挟まれたマンハッタンが遠くセントラルパークまで見渡せます。中央部に見えるひと際高いエンパイヤーステートビルが印象的でした。
 南には遥かに自由の女神が見えます。でも彼女、冬の間は氷に囲まれてとても寒そうですね。自由の女神があるリバティー島へは、そのレストランから少し歩いたところにある桟橋から船が出ています。暖かくなると大勢の観光客を乗せて船は連日大忙しです。私も一度、話のタネにと出かけたことがあります。像の内部は巨大な空洞で、螺旋階段を伝って頭の上の冠まで行けるようになっています。そして冠の格子状の穴からは外の眺めを楽しむことができました。マンハッタン島の高層ビル群が見えますが、ただ、周囲は河口(海?)なので特筆するような眺めではありません。定番の観光コースかと思いますので、これ以上の余計な話は不要ですね。ただその後長い間、修復や9.11の影響で島に上陸できないことが少なくなかったということも聞きました。

テネリフェでの大事故

ダウンタウンで楽しい日々を過した頃から丁度1年後、とても悲しい事が起きました。それは私が日本に帰って2カ月ほどたった3月末でした。何気なく見ていたテレビは、カナリア諸島のテネリフェ島で大きな航空機事故が起きたことを伝えていました。多くの犠牲者が出たようで、その中に日本人乗務員も二人含まれているとのことでした。それを伝える映像をみてわが目を疑いました。そのうちの一人が何とミカさんだったのです。いや、何かの間違いかとすぐそれを打ち消しましたが、パンナムのスチュワーデスとのこと。疑いようがありません。なかなか信じられませんでした。晴れやかな表情で夢を語っていたミカさん。強がりを言ってもふっとどこか寂しげなところを見せる彼女。艶やかな身のこなし。あの時まさか1年後に亡くなる運命だったなんて、、、。楽しかったNYのことが熱く思い出されました。
 その後仕事で上京するたびにお墓参りをするようになりました。あの事故が無ければ彼女の菩提寺に何度も来るなんてことは無かったでしょう。彼女のことを思い出すことさえなかったかも知れません。でも、もう忘れることはできなくなりました。仕事で飛行機に乗るたびに彼女のことを思い出したものです。一度JALの747に乗った時、お願いしてコックピットを見せて頂いたことがあります。操縦席の前方の左右に180度開いた窓の外には広大な純白の雲海と吸い込まれそうな濃紺の空が広がっていました。彼女の見た夕焼けや夜景の美しさがいかばかりのものだったのか、、、。いや、それを理解するどころかむしろ、彼女が生きそして感じた世界が、より一層眩しく感じられただけでした。もし事故が無かったら、今頃はきっとあの勝気な性格も少し丸くなり、明るく元気、に加えて仕事で培った優雅な立ち居ふるまいが素敵な、チャーミングなおばさんになっていたことでしょう、、、。ミカさん、オレに逢ってくれてありがとう。楽しい時間と希望を頂きました。そして良い思い出をありがとう。
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