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ヨーロッパ旅行記
14.皿洗いと職場の仲間
これ以後は北アメリカの後にお伝えします。
18.3度目のヨーロッパ
ロンドンでバイク探し
19.バイク旅行
初夏のスカンジナビア
20.ワサンタとの再会
21.ポルトガルからトルコへ
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ハノーファー
針金細工を周辺の町でも売ってみようと思い立ちました。
そしてそこには思いもかけない素敵な出会いがありました。
優雅なたたずまい
商売上ハンブルグがさほどやり易いとところではないことがわかったので、周辺の町にも目を向け始めました。
8月のはじめ、ためしにハノーファーにいってみました。ハンブルグから南へ200Kmほど、ハノーファーは国際見本市ハノーファーメッセで世界的に有名な町です。人口が60万人ほどの中都市です。近代的な催しの一方、他の都士同様に、旧市街には中世の面影がのこされており、狭い通りや、切妻造でバルコニーのある民家、14世紀のれんが造のマルクト教会などがあります。
旧市庁舎はゴシック様式で、1439〜55年にたてられたものです。その堂々としたたたずまいは何度訪れても見飽きることはありませんでした。また西の郊外にある有名なヘレンハウゼン宮殿は王族の夏の離宮で、広大なバロック庭園とイギリス風の庭園で世界的に有名なところです。
駅を出ると正面に、いつも地下鉄の工事中だった通りが見えます。宿はユースホステルに取りました。ユースホステルへは電車トラムも使えますがく歩きました。新市街地を抜けてアヒルがいる運河沿いの並木道を暫く歩くと、マッシュゼー(マッシュ湖)につづく広々した敷地に体育館などのスポーツ施設が見えてきます。その奥がユースホステル(ユーゲントヘルベルゲ)です。広々とした芝の緑に囲まれ、スポーツ施設にも近く、ドイツらしいとても健全そうな環境の中にあります。
その後故あってこの町には何度も来ることになります。特に旧市庁舎の堂々として優雅なたたずまいは、その前にあるしっとりとした落ち着きを感じさせる池とともに、生涯忘れられないものになりました。
ミュンヘン オリンピックとバレーボール
そう、当時、ミュンヘンではオリンピックが開かれておりました。男子バレーボールや、水泳の田口などが金メダルを取った大会です。日ごろテレビなど全く見ないのですが、オリンピックはやはり関心がありました。また、商売仲間の間では、ミュンヘンに行けば大もうけができる、とかといった類の話が飛び交い何かと話題に事欠かない気持ちが高ぶる毎日でした。
何か落ち着かず、私もよほどミュンヘンに行こうかと考えましたが、頻繁に取締りを受けていた時期でもあり、ミュンヘンはもっと厳しいのではないかと考えました。また、ミュンヘンに行かずとも、ここ北ドイツでも観光客が増えており、売り上げもそこそこ伸びていましたので、ここ北ドイツで何とかやって行くことにしました。ここハノーファーには、せめて気分を変えるために場所を変えてみようと思ってやってきたのでした。
オリンピックの期間中は、歩行者専用のショッピング街にある家電製品店の前で店を開いていました。なぜ家電かといいますと、通りからテレビが見えるのです。何台もあるテレビのうちいくつかは、いつもオリンピックをやっていましたので、私は当然その前に陣取ったのです。その通りには、私以外にもいくつもの物売りがずらっと並んでいます。ドイツ人以外にはイタリア人も沢山いたのですが、東洋系は私だけでした。
その大会で日本の男子バレーボールが優勝したのですが、偶然にもそのときの決勝戦を私はそこで観戦することができたのです。その日いつものように店のテレビをなんとはなしに見ていました。番組プログラムを事前に知る事などできませんので、テレビがやっているものを見るだけです。たまたまバレーボールの試合でした。よく見ると一方のチームが日本だったのです。私は、高校時代にバレーボールをやっていましたので、バレーボールには人一倍関心があります。そして見ているうちにどうもそれが決勝戦であることがわかりました。私もいつの間にか、かなり熱くなって行ったようです。その決勝戦はバレーボール史に残るような、まさに手に汗握る実に白熱した戦いでした。私はそのとき夢中でした。そこがドイツであることも、針金細工を売っている最中であることも、客が店主を探していることも、眼中にはありませんでした。
店の前の人ごみを掻き分けて電気屋のテレビの前に行き、ただただ熱くなっていました。大接戦の末ブルガリアを下し優勝したときには、思わず何度も何度もガッツポーズをしてしまいました。イヤー、少し大げさに言うと、私でも愛国心のようなものを感じてしまいました。海外にいるからなのでしょうか。同国人の活躍がとても誇らしく思われてなりませんでした。
ガービーとの出会い
この町で私は恋をしました。それはオリンピックも終わり、北ドイツでは観光客もめっきり減って短い夏が過ぎようとしていたころでした。売り上げも落ち、そろそろハンブルグ周辺に場所を移動しようと考え始めたころでした。
ある日の朝、いつものように、駅の近くの歩行者専用道路で店を広げていました。私は地べたに敷いた濃紺のビロードの布の上に四つんばいになり、絡み合った鎖をほぐしながら商品を一つ一つ並べていました。そのとき下を向いたままの私の目の前で、女性用の赤い靴がこちらを向いて立ち止まりました。じっと見下ろしている視線を感じます。速く並べ終えたいと少しばかり焦りますがそんなときに限って、商品のペンダントを下げるチェーンが異常な複雑さで絡み合ったりします。
やっと並べ終えて立ち上がると、目の前にかわいらしい女の子が立っていました。いきなり、タイ人かと聞いてきました。「ナイン、イッヒ ビン ヤパーナ(いいえ日本人です)」と答えましたが、彼女にはおそらくどこ人でも良く、見慣れない東洋人であることだけで十分だったようです。
それから昼過ぎまで、彼女はずっと私のそばにいました。客がいなくなるのを見計らってはいろんな質問を浴びせてきます。またコーヒーやチョコレートの差し入れもありました。トイレに行く間に店番もしてもらいました。昼食は、目の前のファーストフード店で買った私の大好物のスモークサーモンと酢漬けニシンのサンドイッチを一緒に食べました。保母さんの学校に通う学生。私より3歳年下の18歳です。名前はガブリエル。ショートネームはガービーです。やや薄く透けるような青色の目に栗毛の髪。目鼻立ちのすっきりした聡明そうな少女でした。
その日はあいにく天気が悪く、昼過ぎから雨が落ちてきたので、商売は早々に切り上げました。駅前の人ごみを抜け、彼女が良く行くというカフェに入りました。勧められるままにアイスクリームのたっぷり乗ったフルーツパフェを注文しました。その後小一時間ばかり、私が旅した国のことや彼女が夏の休暇でいった地中海の島のことなどいろんな話をしました。彼女の英語は私よりもやや下のレベルです。私はドイツ語がほんの少しできました。英語とドイツ語をミックスさせた会話はそれ自体でもなかなか楽しいものでした。可愛い女の子とならなおさらです。
デート
翌日は日曜日。それは私にとって生まれて始めてのデートでした。
実は、そのときの私の服装ははっきり言って浮浪者並でした。上着はトラフェミュンデの建設現場で拾ったコートだけ、髪は伸び放題だったのです。ガービーと別れたあとすぐデパートへ向かったのはいうまでもありません。せめて変なにおいのする服だけは取り替えなければなりませんでした。髪は自分で少し切り、髭もきれいに剃りました。
翌日は久しぶりに快晴でした。朝の気温はかなり低く、8月末の北ドイツはもう秋の気配さえ感じられました。朝日の中の彼女はまた一段と可愛く、いや美しく輝いてさえ見えました。彼女のリードで、美術館やラートハウス(旧市庁舎)そしてマッシュゼーと、話しては歩きました。おなかがすいたら、熱いブルスト(ソーセージ)をほおばり、のどが渇いたら冷たいアイスクリームで潤しました。疲れたら湖のそばのオープンカフェで一休みします。明るい日差しのなか、生まれてこの方体験したことが無いような、とても幸せで楽しい時間をすごしました。
気がつくと、私は彼女に恋をしていました。その可愛さにすっかり魅了されてしまいました。一目ぼれというのでしょうか。また次の日曜日に会う約束をしました。ユースに帰ってからも、その日の日中のことが忘れられず、彼女のことを考えるだけで、何か、、こう、、どう言ったらよいか、、ほわーん、となってしまうのでした。
翌日から、ハノーファでの商売はやめました。格好をつけてもしょうがないのですが、自信の無い生き方を彼女にだけはあまり見られたくなかったのです。その後メインの活動地域は北ドイツの田舎町に移しました。土曜日にハンブルグに戻り、日曜日はハノーファーで過ごすということがパターン化していったようです。
ハノーファーメモ
ハノーファー
北ドイツ、ニーダーザクセン州の州都で人口54万人の都市ハノーバーは産業、商業、工科総合大学のある学術研究都市、そして見本市の町として知られている。2000年には万博が開催された。1714年から123年間に渡り、ハノーバー選帝侯はイギリス国王を兼任したという歴史もある。戦後は緑の多い近代的な都市として発展してきた。市内のヘレンハウゼン王宮庭園が世界的に有名。
アクセス
◇空港:国際空港がある。空港と中央駅間はSバーンで17分。
◇鉄道:フランクフルトより新幹線ICEで2時間20分、ベルリンより1時間30分、ハンブルクより1時間10分。
見どころ
ハノーバーはかなり大きく、
見どころが点在している。中央駅から近代的なショッピングモールがまっすぐに中心のクレプケ(Kroepke)に伸びる。さらに進むとマルクト教会があり、このあたりが旧市街。市内観光散策用に赤い線が道路に引いてあり、このラインをたどると36ヶ所の町の観光名所を効率よく2,3時間で回ることができる。ヘレンハウゼン王宮庭園へは地下鉄の4番または5番で。
◇ヘレンハウゼン王宮庭園
町の北西3キロのところにあり、地下鉄のヘレンホイザー・ゲルテン駅で下車。4つの庭園からなるが、大庭園「グローサー・ガルテン」に注目。1666‐1714年に造園され、もっともオリジナルな形でドイツ初期バロック庭園の姿を今に伝えている。幾何学的模様の広い庭園は見ごたえ十分。大噴水、オランジェリー、庭園劇場などがある。夏にはハノーバーにゆかりのあるヘンデルの「水上の音楽」が演奏される。演劇や花火が行われ、世界中から人が集まる大イベント。山の庭園ベルクガルテンにはハノーバー王朝の霊廟と蘭の庭園がある。
◇市庁舎
1901‐1913年に建てられた町のシンボル。一階のホールには市の大模型がある。エレベーターで高さ100mの丸屋根に上るとそこは展望台。そこからはハノーバーの町が一望できる。緑の多さに驚くはず。
展望台:毎日10時‐16時
◇ケストナー博物館
古代から現代に至るまでの5000年に及ぶ文化歴史コレクションを展示。とっくに外交官で考古学者であったアウグスト・ケストナーによる古代エジプトのコレクションは圧巻。彼はゲーテの若き時代の恋人シャルロッテ・ケストナーの息子である。
開館:火曜‐日曜 11時から18時(水曜は20時)まで
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